FCTメディア・リテラシー研究所 Japan Media Literacy Research Institute
『21世紀の倫理』笠松幸一、和田和行編著、八千代出版、2004年刊
本書は、「はじめに」において、「科学技術のあり方に触れることなしに、現代の倫理および倫理学を語ることはできない」としたうえで、「現代倫理における諸問題について、その解決をめざすというよりも、むしろまずは的確にその問題を把握すること、その問題をわかりやすく整理することに主眼をおいた」としている。
構成は以下のとおり。第1章「倫理学の歴史」、第2章「生命倫理」、第3章「環境倫理」、第4章「メディア社会の倫理」、第5章「グローバル化時代の倫理」。ここでは第4章、とくに鈴木みどりが執筆した第4章の1節と4節を主として紹介する。
第4章ではまず、「メディア社会において、私たちが人間の尊厳を失うことなく主体的に生きていくために求められる倫理とは、いかなるものであろうか」という問題提起がなされる。それを考えるには「社会の情報化でメディアが果たしつつある役割や機能を改めて検証し、いま問うべき問題の数々を意識化しつつ、人間とメディアのより望ましいあり方を追求していくことが必要である」としている。
1節「社会の情報化をめぐって」では、情報化とメディアの機能にかかわる多様な研究の中から、「社会におけるメディア制度やメディア活動のあり方を問題にする研究、また、メディアと市民の望ましい関係を追求するメディア・コミュニケーション研究に焦点をしぼり、時代の推移とともにどのような問題が提起され、どのような取り組みが行われてきたかを概観する」としている。
まず、規範理論の領域での最初の研究として知られているシーバート、ペターソン、シュラムの『プレスに関する4理論』(1956)の4類型のうち「社会的責任論」に着目する。この理論の生成に多くの示唆を与えたハッチンス委員会報告『自由で責任あるプレス』(1947)を紹介し、シュラムの『マス・コミュニケーションにおける責任』(1957)における社会的責任論を要約する。娯楽産業としてのメディアの飛躍的な発展期に入りつつあった1950年代末のアメリカにおいて、「メディア状況を冷静に分析し、市民に対してクリティカルなオーディアンスになることの重要性を説いている。それは21世紀の今日におけるメディア・リテラシー活動の展開へとつながる先見性に富んだ提言であったといえよう」とシュラムを評価している。
「メディアを持つ者」と「メディアを持たない者」の格差拡大が議論される状況の下、ユネスコ・マクブライド委員会報告『多くの声、一つの世界』(1980)がまとめられたが、随所で提示していた「コミュニケートする権利」をめぐる議論と研究が活発化していく過程を論じる。さらに、「情報コミュニケーションの南北問題」は、「デジタル・デバイド」と総称されるようになってきたが、その克服をめざし、21世紀に入って準備されている「世界情報社会サミット」(WSIS)の運営方式(幅広い各層への参加を求める)を紹介している。
これらの歴史的な検討の上で、メディア・リテラシーの取り組みの展開、基本的枠組みなどについて説明し、「メディア・リテラシーはメディア社会を生きるすべての人間の基本的な権利(人権)であり、コミュニケートする権利を構成する諸権利の中核をなすものといえるだろう」としている。
2節「広告倫理」では、「広告とは」、「広告における倫理」、「今後の広告倫理のあり方」、また、3節「コンピュータ・エシックス」では、「コンピュータ・エシックスとは」「ネチケット」「電子民主主義」「デジタル・デバイド」「著作権の保護」「プライバシーの保護と個人情報保護」を講じている。
4節「メディア倫理」では、メディアをめぐる問題として、「子どもとメディア」、「ジェンダーとメディア」、「報道と人権」を取り上げている。
まず、「それぞれの領域で何が問題になっているかを、歴史的な経緯を踏まえつつ整理」している。すなわち、「子どもの権利条約」(1989)、第4回世界女性会議(1995)の行動綱領で示された「女性とメディア(J項)」など多数の項目を例示し、具体的な経緯を整理しつつ説明している。次に、「各領域で見られる変革の動きをグローバルな視野でとらえ、メディア、なかでもテレビと新聞が、社会の状況変化に対応して自主的に制定してきた新しい倫理基準やガイドラインを具体的にとりあげ、分析と考察を加えていく」としている。さらに、「今日の日本におけるメディアの倫理がどのような状況にあるのかを分析し、21世紀のメディア社会における課題を展望する」としている。最後に、メディア倫理の確立には、「地球市民として主体的かつ能動的に社会に参画する人たちの存在が不可欠である」と締め括っている。
−『fctGAZETTE』No.84(2004年11月)掲載−
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