本書は、現在のメディア・リテラシー教育研究の第一人者ともいえる、デビッド・バッキンガム(ロンドン大学教育学研究科教授)による、この時点での集大成ともいえる一冊である。メディア・リテラシーの理論的な背景から現在の到達水準、そして将来の展望までを、理論的に、教育学や社会学、心理学、言語学など様々なアプローチで、豊富な事例を交えて述べている本書は、現場でメディア・リテラシー教育実践を行っている人や研究者にとどまらず、これからメディア・リテラシーについて知ろうとしている方々にとっても大いに役立つものである。
現在日本ではメディア・リテラシーの必要性については共通認識が生まれつつあり、学校教育や社会教育において実践活動がおこなわれるようになってきている。しかし一方でこれらの活動を理論的に位置付けていく作業は不足しており、未だ手探り状態にあるといえる。
本書はイギリスの状況やイギリスの学校でのリサーチに基づいて論が展開されているので、当然日本とイギリスの状況の違いを念頭において考える必要があろう。しかし本書にみられる様々な実践を踏まえた多角的な理論からのアプローチは、理論面での不足のある日本にとっては非常に参考になる。批判的な分析と創造的な制作を両輪としたメディア・リテラシー教育の取り組みの担い手となっていく方々に、本書が活かされることを願ってやまない。
目 次
第T部 理論的根拠
第1章 なぜ、メディアについて教えるのか
メディアとはなにか
メディア・リテラシー教育とはなにか
なぜ、メディア・リテラシー教育か
イギリスにおけるメディア・リテラシー教育の進展
民主化と防御
新しいパラダイムへ向けて
未来へ向けて:教えることと学ぶこと
未来へ向けて:より広い視野から
取り組みは続く
第2章 ニューメディア時代の子ども
子ども時代とメディア
変容する子ども時代
テクノロジー
経済
テクスト
オーディアンス
教育への示唆
第3章 複数のメディア・リテラシー
リテラシーを定義する
複数のリテラシーの社会理論
複数のメディア・リテラシーのマッピング
魔法の窓をこえて
リアリティの問題
アセスメントの限界
なぜリテラシーか
第U部 到達水準
第4章 研究領域を定義する
制作
言語
リプレゼンテーション
オーディアンス
実践における基本概念
結論:一般的原則
第5章 授業戦略
テクスト分析
文脈分析
事例研究
翻訳
シミュレーション
制作
結論
第6章 メディア・リテラシー教育を位置づける
独立した学術科目:メディア・スタディーズ
カリキュラムを横断するメディア・リテラシー教育
言語や文字におけるメディア・リテラシー教育
メディア・リテラシー教育とICT
職業教育でのメディア・リテラシー教育
教室を超えるメディア・リテラシー教育
結論
第V部 メディアを学ぶ
第7章 批判的(クリティカル)になる
「批判(クリティシズム)」の社会的機能
批判的な言葉ゲーム
「イデオロギー」にアプローチする
批判的言説を学ぶ
批判(クリティシズム)を超えて
第8章 クリエイティブになる
実践を変える
「創造性」の限界
制作の社会的世界
メディア・ライティング
ジャンルを使う
結論
第9章 教育学を定義する
概念的な学びを理解する
ダイナミックなモデルに向けて
オーディアンスを研究する:社会それ自体
自己評価:実践から理論へ
モデルを超えて
第W部 新たな方向
第10章 政治学、楽しみ、学び
ポストモダン・アイデンティティ?
遊びのある教育学
パロディの政治学
楽しみを乗り越える?
結論
第11章 デジタル・リテラシー
デジタル・リテラシーに向けて
デジタル・制作のモデル
「アクセス」の意味
過程と作品
テクノロジーと教育学
第12章 新しい学びの場所
教室を超えるメディア・リテラシー教育
メディアと若者の活動
メディアと「学校の外」の学び
評価
脱学校化へ向けて?