FCTメディア・リテラシー研究所 Japan Media Literacy Research Institute
『スキャニング・テレビジョン日本版』鈴木みどり監修、イメージサイエンス制作、2003年
−メディア・リテラシーを学ぶためのビデオパッケージ2003.4完成―
ビデオ・テクストとティーチング・ガイドがセットになった日本初の本格的なビデオパッケージ。カナダで制作され数多くの賞に輝いている『スキャニング・テレビジョン』氓ニから日本のメディア環境に即して厳選したテクスト18篇を収録し、日本語で提供する。原作はメディア・リテラシーの第一人者、ジョン・プンジャンテとメディア教師ニール・アンダーセン、CHUMTVのサラ・クロフォードのパートナーシップで制作され、公教育の場で広く使われている。
ティーチング・ガイドでは、まず、ビデオの内容を短く説明しながら問題を提起する「導入」部分があり、次いで、「見る前に」、「見ながら考える」、「見た後で」の3段階にわけて多角的に分析し、考え、討論し、対話するという一連のメディア・リテラシー活動を提案している。メディアについて楽しく学びながら創造性を育むことができる。中学・高校の「総合的な学習の時間」や「情報」の授業はもちろん各地で開かれている生涯学習講座の教材としても最適。日本版の制作でも、鈴木みどりを監修者に、立命館大学社会学研究科大学院生(翻訳)、FCT市民のメディア・フォーラ(翻訳・頒布)、株式会社イメージサイエンス(制作・販売)、という教師・研究者、市民、メディア専門家の3者によるパートナーシップが構築された。
〔メディアと構成された「現実」〕
1.スーパーモデルがやきもちをやくと…
スーパーモデルを起用したクルマのCMと、それに関して立場を異にする3者(広告制作会社、イギリスの独立テレビ規律機関、性差別的な表現に反対する女性市民グループ)へのインタビューを交え、映像言語、女性表現のあり方、広告コード、について考える。
2.バットマン:マスク・オブ・ファンタズム
アニメ映画『バットマン:マスク・オブ・ファンタズム』のなかの2つのシークエンスを使って、カメラのアングルやサイズ、人物の行動などから、アニメ暴力のリプレゼンテーション、性役割、ヒロイズムを分析する。
3.得意なものは何?
それぞれに自分の得意なものを披露する男の子たちが登場し、「誰もが何かしら得意なものを持っている」と語りかけるPSA(パブリック・サービス・アナウンスメント:公共広告)。
4.私たちは女の子
 多様な女の子が登場し、ステレオタイプにとらわれることなく、自分らしくあることを主張するPSA。
 ビデオ・テクスト3と4を組み合わせて、メディアの価値観に影響されやすい子どもたちが一人ひとりかけがえのない自分自身について考える。
5.人種差別をやめよう!PSA
 カナダの子ども・若い人たちが人種差別反対をテーマに制作した10本のPSAを比較しながら、映像メディアの様式や技法を学び、人種差別反対のメッセージがどう表現されているかを分析する。
6.恐るべき真実:アフリカ系アメリカ人の財布交換プロジェクト
 マイケル・ムーア制作。アフリカ系アメリカ人の持っていた財布を警官が銃と見間違えて起こった射殺事件に対する風刺的なドキュメンタリー。人種的偏見・差別やそれらを題材にした風刺や笑いの意味を考える。
〔イメージと価値観の販売〕
7.グラウンド・ゼロの広告
 グラウンド・ゼロは斬新で魅力的な広告をつくることで話題になることの多い広告代理店である。そこで制作されたCMの分析をもとに、クリエイティブな広告の制作プロセスについて、また、イメージや価値観を販売する広告について考える。
8.コカコーラ化された世界
 コカコーラ社はコカコーラの認知度を高めるためにさまざまなマーケティング手法を使ってきた。コカコーラのロゴやCMが伝えるメッセージ、CMソングなどから、コカコーラと私たちの関係を考察する。
9.カルチャー・ジャマー
 カルチャー・ジャマーとは、主流メディアのエネルギーに対抗するようなメッセージを創りだす人たちである。彼らの活動を通して、商業化された生活とメディア、企業、社会的アクティビズムについて学ぶ。
〔環境化するメディア〕
10.スパゲッティ・ストーリー
 英BBCは1957年のエイプリルフールの日に、木に育つスパゲッティの大豊作とその収穫風景を放送した。ドキュメンタリーという様式の信頼性について、映像、音楽、ナレーションなどから分析する。
11.歴史を利用する広告主
 キング牧師の有名な演説「私には夢がある」に基づいた仏アルカテル社のCMを取り上げ、公民権運動のシンボルであるオリジナルの演説がもつ歴史的文脈を、どのようにつくり変え販売戦略に利用しているかを分析する。
12.ポップ!商品コネクション
 スポンサー企業はミュージシャンを使ってどのように子どもたちに語りかけているのか。ミュージシャン、企業、ファンへのインタビューを通して、ポップカルチャーと商品の販売促進との関係を考える。
〔地球市民〕
13. ケネディとニクソンの討論
 1959年のケネディとニクソンの大統領選テレビ討論会を取りあげ、政治キャンペーンを論争を基盤とするものからイメージ中心へと変容させたと言われる映像を検証。外見、態度、目線などによる影響を分析する。
14.ケネディ暗殺:ザップルーダーの8@フィルム
 ザップルーダーがケネディ大統領の暗殺現場を撮影した無声映画。このフィルムが辿った歴史を踏まえて映像を分析し、暗殺事件をめぐる科学的、法的証拠として利用されたこと、さらに著作権の問題などについて考える。
15.9.11:メディア報道の報道
 このドキュメンタリーでは、2001年9月11日の事件発生直後からニューヨークで取材し、報道していたニュース制作者にカメラが向けられている。危機的状況にあるときの報道メディアの役割を問う。
16.メディア、戦争、検閲
 カナダの各局報道関係者へのインタビューを通して、アメリカ政府による対テロ戦争のニュース報道規制の動きとメディア報道のあり方を考える。メディアは政府による情報差し止めの要請を尊重すべきか、それとも視聴者に情報を伝える責任があるか。
17.アルジャジーラ・テレビ
 カタールを本拠地とし、西側の統制から独立したアルジャジーラ・テレビの報道スタンスや視点を検証する。欧米メディアと比較しながら、ニュースとは何かという根本的な問題も考える。
〔ニューテクノロジー〕
18.インターネット
 インターネットは自由な社会に民主主義をもたらすのか、それとも企業が潜在的な消費者をターゲットにするための便利な道具になるのか、識者や業界関係者のインタビューを10年にわたってふりかえり、問いかける。

鈴木みどり監修『スキャニング・テレビジョン日本版』(イメージサイエンス制作、2003年、定価19,800円) 
−『fctGAZETTE』No.80(2003年7月)掲載− 
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